免疫とは
人間は60兆個ものさまざまな細胞からなりたっています。生物が健康な状態で生きていくためには外敵の侵入により個体破壊されたり、外敵が寄生しつづけないように、自己の細胞と自分のものでない(非自己)の細胞を見分ける必要がでてきます。この見分ける仕組みが「免疫」です。
もともとの「免疫」の語源は、ラテン語のimmunitus(免税、免除)や immunis(役務、課税を免れる)と考えられており、疫病(感染症)を免れるという意味で「免疫」という言葉が使われるようになりました。生物にとって一番身近な脅威は感染症で、古来多くの人が感染症の流行で無くなってきました。しかし、一回感染して生き残った人は同じ疫病には二度かからない (“二度なし現象”)ということが経験的に分かってきました。つまり「免疫」ができたわけです。この「免疫」をあらかじめ付けて疫病を未然に防ごうとしたのが、種痘を発明したジェンナーでした。それ以降、多くのワクチンが開発されるととともに、どうしていったんついた「免疫」が終生続くのか、また逆に「免疫」がつかなかったり、効果が続かない事が起こりうるか研究が進み、免疫を記憶するT細胞やB細胞といったリンパ球の発見へつながって行きました。
主要な免疫の標的はもちろん感染症ですが、自分の細胞が変化してできたがん細胞も遺伝子の異常によって自己とは異なるタンパク質を作ったりするために非自己として認識され、免疫反応が起こっていることが発見されました。これが「がん免疫」で、もしがん細胞がこの免疫から逃れる方法を身につけると「免疫逃避」が起こり、がんが発症してしまいます。最近、この免疫逃避の仕組みが次々と解明され、がん細胞を攻撃しようとするT細胞に抑えこんだり、麻痺させてしまう信号の伝達を阻止することで本来の免疫力を取り戻させる方法(免疫チェックポイント阻害剤)が有効と分かり2018年のノーベル賞の対象となりました。しかしこの治療が有効な患者さんは2~3割に過ぎず、まだまだ解明・克服しなければいけないがんの「免疫逃避」があります。
このコーナーでは、免疫の仕組みから始まり、がん免疫の特殊性、がんに対して開発されているさまざまな免疫療法の現状を解説します。
なお免疫療法についてはすでに有効性と安全性が証明されて保険診療が認められたものから、まだ臨床開発段階で未承認のものまでご紹介しています。もし担医師に相談される場合は、治療の効果がどれくらい証明されているか、保険が使えるかなどをしっかりお尋ねになって下さい。