免疫チェックポイント阻害剤
免疫システムには、免疫応答を活性化するアクセル(共刺激分子)と、抑制するブレーキ(共抑制分子)が存在します。後者は「免疫チェックポイント(immune checkpoint)」として機能し、自己の細胞や組織への不適切な免疫応答や過剰な炎症反応を抑制しています。代表的な免疫チェックポイント分子として、CTLA-4やPD-1などの抑制性受容体があり、T細胞上に発現しています。これらの抑制性受容体に、生理的なリガンドが結合すると(受容体という鍵穴に入る鍵がリガンドに相当)、T細胞の増殖やエフェクター機能(サイトカイン産生や細胞傷害活性など)が抑制されます。がんはこの抑制機構を利用して宿主の免疫監視から逃れています。免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント分子である抑制性受容体もしくはそのリガンドに結合し、抑制性シグナル伝達を遮断することによって、免疫系のブレーキを解除し、腫瘍に対する免疫応答を高めます(図参照)。
2019年6月現在、海外も含めて承認を得ている免疫チェックポイント阻害剤は抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体の3種類だけです。それぞれの免疫チェックポイント分子の機能に違いはありますが、共通する作用として免疫細胞に抑制のシグナルを入れる受容体もしくはリガンドを抗体でブロックすることすることで抗原提示細胞や腫瘍細胞からの抑制シグナル(ブレーキ)が入らないようにしてT細胞の活性化を持続させ、がん細胞を攻撃させるというものです。また、免疫チェックポイント阻害剤の主な目的は抗原提示細胞を介してT細胞を十分に活性化して、癌細胞を攻撃させることと考えられており、使用される抗体は、もともと抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性が低い抗体、もしくは、抗体の幹の部分にあたるFc部分のアミノ酸を置き変える等でADCC活性を低下させている抗体である場合が多く、基本的には抗体によってチェックポイント分子が対応するリガンドと結合することを防ぐ「ブロッキング」が中心的な作用であると考えられています。例外的ではありますが、強いADCC活性を持つ抗PD-L1抗体も開発されており、一部の腫瘍や免疫抑制細胞がPD−L1分子を発現していることを重視しているからだと考えられます。
図の説明
免疫チェックポイント阻害剤の主な作用機序
【図上段】 ①がん抗原タンパクを貪食した抗原提示細胞からHLAを介してがん抗原が提示され(主刺激シグナル)、かつ②副刺激シグナルが入るとT細胞が活性化されて腫瘍局所へ浸潤する。このT細胞はHLAを介して同じがん抗原を提示しているがん細胞に対して攻撃を開始する。
この状態ではチェックポイント分子であるCTLA-4やPD-1からのT細胞内への抑制性シグナルはない。
【図中段】
活性後に疲弊したT細胞表面上にCTLA-4分子が発現して、CTLA-4抑制シグナルがONになった状態。さらにPD-1分子が発現して、PD-1/PD-L1経路の抑制シグナルもONになっている。結果として、T細胞でブレーキが作動している。
【図下段】
抗CTLA-4抗体を投与することによってCTLA-4シグナルが解除され、抗PD-1抗体によって
PD-1/PD-L1経路の抑制シグナルも解除されため、T細胞のブレーキが解除されている。
【図内の略号の説明】 HLA, ヒト白血球抗原; TCR, T細胞受容体.