自然免疫
病気を起こす細菌(ばい菌)やウイルスが私たちのからだの中に入ってくると、免疫細胞が反応してこれらの病原微生物をやっつけます。このとき、免疫反応はまず自然免疫、次いで獲得免疫という2段階で働きます。
自然免疫は原始的な生物からあるしくみで、これを担うおもな免疫細胞は、好中球やマクロファージといった食細胞(細菌などを食べる細胞)です。自然免疫を担う細胞は、微生物にあって私たちの細胞には無いさまざまな分子を認識する受容体(レセプター)をもっており、これによって微生物に速やかに反応してこれをやっつけようとします。そのような受容体の代表といえるのが、Toll(トル)様受容体と呼ばれるもので、2011年のノーベル生理学・医学賞の対象になったほど重要な分子です。かぜのウイルスにかかると熱が出たり、肺炎になると黄色い痰(病原微生物を食べた白血球の死骸)が出たりするのも、自然免疫の細胞がToll様受容体などを介して微生物を認識してこれと戦っているあかしです。
自然免疫は次に樹状細胞と呼ばれる免疫細胞を活性化します。そして、活性化した樹状細胞が病原微生物を取り込んで消化し、その成分を細胞の表面に出して、T細胞と呼ばれるリンパ球に提示します。この樹状細胞もToll様受容体とともに2011年のノーベル賞の対象になった重要な細胞です。このようにして樹状細胞によって活性化したT細胞が、攻撃すべき物質(抗原)に集中的にピンポイント攻撃をする獲得免疫を担います。
このような「自然免疫 → 樹状細胞 → 獲得免疫」という流れが免疫反応の骨格です。したがって、自然免疫は免疫反応を最上流でコントロールし強い免疫反応を起こす重要なしくみです。そして、これががん免疫療法にも活かされています。例えば、がん免疫療法の始まりといわれるコーレイの毒素は、1800年代の終わりにニューヨークの外科医コーレイ博士が、連鎖球菌とセラチア菌と呼ばれる細菌を熱処理してがん患者さんに打ったもので、がんの種類によっては非常に有効でしたが、これはまさに、微生物で自然免疫を活性化し、ひいてはがん免疫を活性化しようという方法です。また、このような自然免疫を活性化する物質は「アジュバント」と総称され、がんワクチンでがん抗原とともに患者さんに投与し、がんに対する免疫反応を強めるのに使われます。さらに、先ほどの樹状細胞も一種のアジュバントと考えられ、がん抗原を取り込ませてがん患者さんに打つという樹状細胞ワクチンに使われています。