「癌ワクチン臨床試験を通じて思うこと」

九州大学生体防御医学研究所附属病院腫瘍外科  定永倫明


 第4回基盤的癌免疫研究会において、ペプチドワクチン療法の臨床試験の報告が久留米大学、三重大学を始めとして、複数の施設での発表があり活発な討論がなされた。我々の施設(九州大学生医研附属病院)においても、MAGE-3ペプチドを用いた癌ワクチン療法について、昨年に引き続き発表させて頂いた。腫瘍免疫学の臨床応用としての新しい治療法として、大いに期待される治療法と考える。

 現在行われている臨床第い相試験としてのend point、すなわち治療の安全性や免疫学的評価は、今後のより良い治療法の開発につながるため、非常に重要である。しかしながら、対象症例が他の治療が有効でない非常に進行した症例であるため、実際に臨床試験に参加している患者本人、あるいは家族にとっては、治療効果や臨床症状の緩解を得ることが当然のことながら主目的である。臨床の現場で実際に患者を担当する医師としては、治療効果がなく、病状が悪化していくと無念に思うことも多々ある。また、一方で治療の特異性から、HLAがマッチし、なおかつ腫瘍抗原(我々の施設ではMAGE-3)の発現が必須のため、それらが陰性の場合は、患者、家族が治療を強く希望しても、お断りしなければならないことになる。また、患者、あるいは家族からも、時折治療の問い合わせの電話を受けることがあるが、対象が他に有効な方法がない進行再発癌症例ということで、対象とならずに断る場合も多い。癌ワクチン療法が、より多くの人を対象とし、治療効果も期待できる治療法として確立していくための、今は通らなければならない必要な過程の時期と考えられるが、実際に臨床の場で携わっている医師としては、目の前の患者さんに貢献できなかった場合、非常に葛藤を感じる時期でもある。

 今後、基礎的、科学的な基盤を下に、より良い治療法を開発し、それを臨床応用へつなげるために、臨床試験に携わる基礎および臨床の研究者、医師を含めた医療関係者一人一人が、本研究会を通じさらなる努力を続けていく必要を強く感じる。そのことが将来的に、難治性の癌の治療に役立つことを信じて、我々も今後一層頑張っていきたいと思う。