パネルディスカッション
「ペプチドによる癌特異免疫療法“2000”」から

久留米大学集学治療センター 山名秀明


 「ペプチドによる癌特異免疫療法“2000”」のタイトルで、伊東恭悟教授と河上 裕教授の司会によりパネルディスカッションが開催された。演題は3題で、三重大学第二内科の景山先生は「HER2/new由来HLA-A2402結合ペプチドを用いた癌ワクチン臨床試験の現状と課題」について、私は当大学で施行中の第I相臨床試験「癌ペプチドワクチン第I相試験の中間解析」について、国立がんセンターの井上先生は「PAP由来HLA-A2402結合ペプチドに対する特異的T細胞の誘導とPAP蛋白抗原を用いた細胞療法における免疫学的評価の検討」についての各々発表された。

 いずれも第I相臨床試験の段階であるが、景山先生はHER2/new癌ペプチドワクチン療法実施に際しての種々の問題点を掲示され、これらの問題に対処するためのガイドライン作りの必要性を強調された。私は、現在施行中の3つのHLA-A24結合性癌ペプチドワクチンの第I相臨床試験(SART-1、SART-3、CypB)の中間解析結果について、ペプチドワクチン投与による有害反応と投与前後の免疫反応性について発表した。井上先生は、キリンビールとの共同研究として現在実施中のPAP由来ペプチドによるex vivoでの特異的キラーT細胞の誘導とそのキラーT細胞を用いた細胞療法の有害反応を主体に、臨床効果を交えて発表された。

 今回我々が施行した癌ペプチドワクチンの第I相試験では、臨床使用において幾つかの新たな知見が得られた。即ち、@癌ペプチドワクチン投与前の皮内テストにおいて、幾つかのペプチドに対してI型アレルギーが認めたれたこと、A進行癌患者の中には、ペプチド投与前の状態で既に末梢血中にCTL前駆細胞が存在している症例が散見され、これらの症例の多くはペプチドワクチン投与によりCTL前駆細胞数の増加を認めたこと、Bペプチドワクチン投与により、患者末梢血中に非投与のLckペプチドに特異的なCTL前駆細胞の発現を認めたことなどである。今後は、より一層慎重かつ詳細に研究を進めるとともに、末梢血中に増加したCTL前駆細胞を目的とする病巣に集積させ活性化するための方法を模索し、次相の試験において腫瘍縮小効果が期待できる治療法を検討して行かねばならない。

 以上の如く、我が国においても癌ワクチンの臨床試験が開始され、また厚生省研究班としての癌ワクチン療法の研究も開始された。今後は、これらの臨床研究によって多くの貴重な知見が蓄積され、近い将来にはこれらの成績を基にした第II相試験が開始されることで、癌ワクチン療法の臨床効果が明確にされるものと思われる。